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黄斑円孔・黄斑上膜

黄斑とは視力にとって一番大事なところです。その大事なところに起きる黄斑円孔と黄斑上膜とはどんな病気でしょう?

網膜の中心「中心窩」は最も大切な一点

黄斑円孔と黄斑上膜がどんな病気か知るために、まずは眼で物が見える仕組みについて勉強しましょう。
瞳孔を通過して眼球内に入った光は、網膜というフィルム上にピントを結び、映像になります。網膜は眼球の奥全体に広がっていますから、一点を見つめていても、上下左右の広い範囲を同時に視野に収めることができます。ただし、網膜の中心とそれ以外の部分では、視力に大きな隔たりがあります。
例えば今この文章を読んでいるあなたは、視点を少しずつ動かして、常に視野の中心で文字をとらえているはずです。もちろん離れたところにある文字も見えてはいるでしょうが、その文字を、視点を動かさずに読むのは、非常に困難だと思います。
このことから、網膜の中心には視力がとても鋭敏な一点が存在することがわかります。その一点は「中心窩」と呼ばれ、直径約0.35mmで、その名前のごとく周囲の網膜より少し窪んでいます。中心窩の網膜は、錐体細胞*1という視力の鋭敏な細胞以外は血管さえ存在せず、高い視力を得るための特殊な構造になっています。このため中心窩の機能が失われると、他の部分の網膜は健康でも、視力は極端に低下してしまいます。

*1錐体細胞:網膜の、ものを見る細胞(視細胞)には杆体細胞と錐体細胞の二種類があります。杆体細胞はおもに光の明暗を感知する細胞で、中心窩を除く網 膜全面に広がっています。錐体細胞は細かいものを見分けたり色を識別する細胞で、網膜の中央に近い部分に密集し、周辺部にいくほど密度が下がります。

中心窩を含む網膜の中央部分が黄斑

眼底写真を見ると、その中心の中心窩を取り囲むように、濃い黄色の部分があることがわかります。直径1.5~2mmのこの範囲は「黄斑」(おうはん)と呼ばれます。黄斑の網膜は中心窩ほどには特殊な構造ではありませんが、それでも錐体細胞の密度が高く、中心窩に次いで視力の鋭敏な範囲です。

 
 

黄斑円孔

網膜の中心(中心窩)に穴があき、見たいところが見にくくなる病気

中心窩の網膜に穴(孔)があいてしまう病気です。穴自体はとても小さなものですが、最も視力が鋭敏な部分にできるため、大きな影響が現れます。完全な穴が形成されてしまうと、視力は眼鏡などで矯正しても0.1前後に低下してしまいます。

高齢者、とくに近視の人に多い

この病気は硝子体の収縮が関係して起きるので、後部硝子体剥離が起こる60代をピークに、その前後の年齢層の人に多発します。とくに、硝子体の液化が進みやすい近視の人や女性に多い傾向があります。

円孔のでき方と症状

なぜ、よりによって一番大事な中心部分(中心窩)に穴があくのでしょう。以前はその理由がよくわかりませんでしたが、検査機器が発達したことで、円孔ができるメカニズムが詳しくわかってきました。
ステージ1 加齢によって硝子体が収縮するときに、硝子体皮質と網膜の癒着が強すぎると後部硝子体剥離が起こらず、網膜が硝子体皮質に牽引されます。これにより、本来は少し凹んでいるはずの中心窩の網膜が、平坦になったり前方に浮き上がったりします。浮き上がった網膜の内部には、袋のような空洞(嚢胞)が形成されます。この状態がステージ1で、視力はまだあまり低下せず、0.5以上はあることが多く、普段は両目で見ているため、異常に気が付かないこともあります。
ステージ2 網膜がさらに牽引され、嚢胞の縁の一部が弁のようになって、剥がれかかった状態です。視力が低下し、物がゆがんで見えたりもします(変視症)。
ステージ3 弁のようになっていた嚢胞上部の網膜が蓋となって完全に分離し、円孔が完成した状態がステージ3です。円孔周囲の網膜は、硝子体皮質に牽引された時の名残をとどめて、少し浮き上がったままになっています。
この状態では視力がさらに低下し変視症という物がゆがんで見える症状も増強します。物がつぶれてみえたり、人の顔をみると中心によった様に見えるという訴えをよく聞きます。
ステージ4 ステージ3から数ヶ月~数年たつと、硝子体はさらに収縮します。分離した蓋は硝子体皮質に付着したまま浮き上がって、前方に移動します。(後部硝子体剥離の完成)

治療は円孔をふさぐ手術

黄斑円孔は1990年まで治療法がありませんでした。しかし今では手術によって視力を改善できるようになっています。

手術の方法

まずこの病気の原因となった硝子体を完全に切除します。(癒着が残っている場合はそれを人工的に外して取り除きます。)硝子体はそれほど重要な役目がある組織ではないので、切除しても視機能に直接的な影響はないことが分かっています。次に、眼球内部にガスを注入します。手術は基本的にはこれで終わりです。
術後は円孔周囲の網膜がガスで押さえつけられている間、円孔が小さくなっています。すると、円孔中心に残っているわずかな隙間にグリア細胞という、周囲の細胞をつなぎ合わせる働きをする細胞が現れ、円孔を完全に塞いでくれます。(閉鎖率70~80%)
また最近では新しい手術手技によって円孔閉鎖率は改善し、現在の円孔閉鎖率は95%以上になっています。
ただし、ひとつ重要なのは、眼内に注入するガスは気体ですから、常に眼球の上に移動してしまいます。ですから手術後しばらくは、ガスが円孔部分からずれないように、うつ伏せの姿勢を保つ必要があります。これを守らないと、再手術が必要になる確率が高くなります。

手術の適応

ステージ2~4の患者さんに、手術が行われます。ステージ1の段階では、硝子体皮質と網膜が自然に剥がれて手術をしなくても治る可能性があるため、しばらく様子をみます。またステージ4の状態で何年も経過しているような場合では、手術による視力の改善が不明で、患者さん自身が不自由さをあまり訴えないことも多く、積極的には手術をしません。

術後の視力

術前に低下していた視力は手術によって改善します。ただその回復の程度には個人差があり、病気の程度によって様々です。通常、1回の手術で8~9割の人は、不自由なく暮らせるレベルの視力には戻ります。すなわち円孔は高確率で閉鎖しますが、視力は元通りとはいかない場合があり、またその回復には通常数ヶ月から1年という長期間を要します。

手術の合併症

注意が必要なのは、網膜裂孔と網膜剥離です。術中硝子体を切除する際に硝子体を人工的に牽引しますので、術中に網膜裂孔・剥離を生じることがあります。この場合は術中に処理しますので問題になることはほとんどありませんが、術後眼球の前方に残してあった硝子体(前方の硝子体は網膜と強く癒着しているため切除しきれません)が収縮し、網膜を引きちぎるような力が加わるために、網膜裂孔・剥離が生じることがあります。術後数ヶ月から約1年の間に約5%の人に起こります。網膜裂孔から網膜剥離を生じると、視野が欠けたり視力が著しく低下する原因となりますので、治療の緊急性は高く、術後のこまめな検査が重要であるのと同時に、見え方の変化に気を付けて、異常を感じたらすぐに受診することが大切です。

再発の確率

いったん治った後に、最初の円孔とは別のメカニズムで再び同じような円孔ができる人が、5%くらいいました。しかし最近では新しい手術手技によって再発はほとんどしなくなりました。
患者さんの約1割は、他眼(反対の眼)にも発症します。ただしその眼にすでに後部硝子体剥離が起こっていれば、網膜が牽引されず、発症の可能性はずっと低くなります。

治療は膜を剥がす手術

手術の方法

黄斑上膜の手術では、まず最初に、黄斑円孔の手術と同じように、後部硝子体を切除し、その後で手術用の細かい鑷子などを用いて膜を剥がします。

いつ手術をするか

失明する病気ではないので、急ぎすぎる必要はありませんが、あまり視力が低下してからだとそれに応じて術後の回復が悪いことも分かっています。一般的には、視力が0.7~0.5程度まで低下すれば手術の適応になると思われます。
また視力の数字以外でもゆがみの程度が強く自覚されるようになった時でもよいでしょう。

術後の視力

術前の視力がよいものほど、早期に網膜の修復がすすんで、視力は正常レベルになることが多いです。ただしゆがみの自覚症状は改善はしますが長期に残存することが多く、完全の仕方もゆっくりです。つまり視力はよくなっても何らかの症状が残りやすいと言えます。また術前の視力が悪い場合は、網膜の視細胞の変性が進んでしまっていることが多く、術後視力も十分には回復しません。

再発の確率

1~2割の人に再発しますが、手術が必要になるほど進行する人は少ないです(数%程度)。